なんもわからん

さっき作った

プロセカ『Let's study hard!』感想・読解みたいなやつ

『Let's study hard!』感想読解書くぞ!

雑感

「勉強しないと大変なことになるから勉強しようね!退屈な勉強も真面目にやったら面白いかもよ!」みたいな学生プレイヤーに向けたメッセージを描きつつもきちんと杏と瑞希にとっての「学校・友人」という居場所が「他者との関わり」という文脈で描かれるというキャラの掘り下げがしっかりされていたのは良かったですね。

というわけで見ていきましょうか。

学校に通う意味、暁山瑞希と「普通」の話

……お前は週明けから1週間、補習だ(教師)

今回のイベスト、杏たちは留年しないために補習に奮闘するというストーリーなわけですが、まず前提として瑞希以外の全員が既に何度も自ら企画した興行を成功させている、つまりインディーズではありますが既にプロのミュージシャンとして立場を確立しており、さらに卒業後の進路としてもプロ活動を続けていくことが前提にあるわけですね。つまりあえて学校に通う意味もない、進級にこだわる必要もないように思われます。この辺は学生大会で活動を終えることを前提にしている部活ものとは違う文脈ではありますね。

これは一般論として学生は当たり前に勉強するものであり高校も入学したならば卒業した方が良いという理由で終わらせても良い話ではあると思うのですが、今回のイベストでは補習を頑張り進級するそれ以外の2つの理由で描いていると思います。それはまず1つ「勉強が役にたつから」そしてもう1つ「友人と共に進級するため」という文脈です。

「勉強が役にたつから」の話は後にまわして、まずは「友人」の話を先にしていきましょうか。
これはまず瑞希のシナリオで以前から描かれているものを読んでいきましょう。
『そしていま、リボンを結んで』(2022/08/20~)で描かれた中学3年生の瑞希は1年歳上の気の置けない友人である類が卒業したあとの学校に興味を持てず、アニメ鑑賞や動画作成という「学校よりも楽しいこと」を見つけそちらにのめりこんでいきました。
反面、初期に描かれた今回と同じ神高イベ『KAMIKOU FESTIVAL!』(2020/12/10~)では高校生になった瑞希は今回のイベントメンバーたちと出会い、学校で新たな友人と騒ぐ楽しさを見いだしています。

(ずっと屋上からみんなを見てたボクが、こうしていろんな人と繋がって――)

つまり瑞希にとって今の友人と話せる「学校」は「楽しい」場なんですよね。
類であったり杏であったりという友人の存在が瑞希を学校に留めてきたわけで、その目線で見ると今回のイベントで描かれたように瑞希が勉学にやる気がないのは納得ではあるんですよね。
瑞希にとっての学校の意味は勉学の場ではなく友人たちの輪に混ざれる居心地のよい場であるからであるので。瑞希にとっては進級さえできればそれで授業に出る必要がない。この辺は瑞希の「楽しいことしかやらない」「少しでも気に入らない部分は受け入れない」1か0しかない繊細さが読み取れて好きですね。まあただの不良生徒だろと言われたら否定はできませんが…。

ボク、テストの成績は問題ないはずですよね!?

この初期神高イベとの繋がりはは前イベ『君と紡ぐPrecious memories』が初期の宮女体育祭イベとの繋がりと同じ構成になっているのが良いですね。咲希と遥の失われた「普通の学園生活」と3年の積み重ねの答え合わせというか。瑞希がこのイベントから神高で楽しく1年間を過ごしてきたのはプロセカの3年間のストーリーが描いてきたもので、そして今屋上からではなく普通に補習授業のクラスという場で、中学時代は人の輪に混じることができなかった瑞希も、そして類も友人たちと過ごすことができるようになっていて、自分のことしか考えられていなかった過去とは違い今は友人の助けに自然に手助けできる余裕ができていて…。

さてここは過去イベで何度も描かれた部分なので深掘りされずに簡単にいきますが、瑞希は「変」「特別」な人として扱われることを極端に厭います。
それは瑞希にとっては自分のスタンスは「変」ではなく「普通」であるからですね。この客観を凌駕する絶対的な主観主義こそが瑞希のキャラクターのキモだったわけで、類や杏、そして彰人や冬弥や司も瑞希を特別な人間としては扱わず、対等な人間として扱ってくれたことこそが瑞希にとって神高が「居場所」になった大きな理由ではあるんですよね。まあみんな瑞希に負けず劣らず変人で自己中心的なキャラクターではありますから。

そんな中で今回のイベントでは杏が瑞希を特別扱いしなかった理由が語られました。というわけでそれを見ていきましょう。

白石杏と「街」概念の拡張

杏が誰とでも仲良くなれる理由を聞く瑞希でしたが、それは「街」で様々な人と関わった結果、ケンカしても最終的にはわかりあえるという経験則からきているというものでした。

何度も歌で勝負してると その人の歌にかける情熱とか、プライドとかが見えてきて……

これは他人とぶつかる前に距離を置くことで人付き合いを避けてきた瑞希のスタンスと対極にあるものですね。瑞希にとっては「変なの」と言われたという強烈な拒絶がトラウマになってるわけですが、杏はそれに対してバトルで応えることで和解してきたという話です。

そもそも杏は「変」とか「普通」とかそういう基準にこだわらないという話ですね。変でもわかりあえるし認めあえる人がいることを知っていたから。これは杏にとっては特別でもなんでもない話だったのでしょうが、高校でイメチェンして明らかに客観的に見て「変」な瑞希にとっては対等な立場でぶつかってくれたことは嬉しいことだったのでしょう。彰人や冬弥もある意味この「街」文化の住民であるからこそ対等な立場を築けたのかもしれません。司は…まあ司なので…。
この杏の「街」の中で生きてきた感覚が街を離れて「学校」でも発揮されているの、良い話ではありますね。
「街」は「継承」の話であるので、彰人や冬弥だけでなく、最終的に瑞希にもこのような考えが受け入れられる将来も……あるのかもしれません。

さてこの杏と「街」の話ですが、単に杏にとってのスタンスが語られたという話ではありません。これはきちんと直近のビビバスのイベントストーリーを汲んだ流れと読むこともできるでしょう。
『Light Up the Fire』そして『On Your Feet』にて杏は街の人たちが杏に対して嘘をついていたことを知り、そして大河へも宣戦布告を決めました。
杏はこの話の中で街の人や大河の行為に対してとても怒ってはいましたが、彼ら自身を嫌いになったり距離をおいたりはしていませんでしたね。これにはそもそも今回のイベントストーリーで語られたように「喧嘩をしてもわかりあえる」文脈が「街」の中で継がれてきたという話であり、かつ杏と「街」の関係が今後壊れるようなこともないという証左となるでしょう。

そしてこのイベントには杏と「街」を繋ぐストーリーに連なるもう一つの文脈があります。それが先に述べた今回のイベントで補習を受ける2つの理由のうちの1つ「なぜ勉強が役に立つか」の話です。

徒然草の読解と継承の話

というわけで杏が今回苦戦していた内容、古典・徒然草の読解です。これ、私が何度もビビバスの読解でしてる継承の話につなげられるんですよね。
徒然草の内容自体は大して重要ではなく(枕草子をリスペクトした部分なのでここにも継承があるみたいな面白さはありますが…)、過去の人の想いが文学という芸術を介して現代に継がれたという部分がキモですね。

継承とは何かというと過去の想いの継承、つまりはビビバスにおけるRAD WEEKENDの継承、そして凪の想いの継承ですね。
このイベントで最初は何を言っているか全く理解できなかった杏でしたが勉強によって徒然草に込められた作者の過去の想いを理解し共感することができました。

(もう呪文みたいな言葉じゃない。分に込められた想いが、私にもちゃんと伝わってくる――!)

ここ、先に述べた意味不明の相手とケンカしても最終的にわかりあえるみたいな文脈ともつながるのうまいこと出来てますよね。
つまりは今までのイベントで描かれてきた「杏が知らなかった・理解できなかったRAD WEEKENDの裏にあったものを受け止め理解し共感しそして自分のものとし勝利(合格)し先に進む(進級)」ことのメタファーとしても読めるわけです。

この「街の人の心を正しく理解しそれを歌に昇華しろ」は大河がこはねにコーチした「街」の話でもありますね。
小さい規模の話に戻して「無駄だと思っていた学校の勉強が他人の気持ち、歌を理解することにもつながる」です。

そしてこの理解をなしたものが補習で杏を支えてくれた「仲間の力」だという杏の解釈はアツかったです。

(みんなの応援が、優しい想いが…… 私に力をくれる……)

結局ビビバスってチームの話で「仲間がいるからできる」の話なんですが、その解釈をすでにビビバスという箱から飛び出した新たな友人たちという「仲間」に当てはめてるんですよね。この仲間がいたからできたは「街」の文脈でもある。つまり杏はこの補習を通じて神高に「街」を築いたんですよね、そろそろだいぶ怪しい話になってきたな。
まあちょっと勉強の話からズレてきましたがこの論をどこに落としに行くかというと仲間がいるならなんでもできる、つまり大河との対決でいなくなった仲間たちを取り戻せばRAD WEEKEND越えもうまいこといくぞ!過去の街の一致団結した想いに勝つのは杏の新たな仲間たち、新たな街の想いが今ここに生まれつつある…!みたいな結論でどうでしょうか。

あと燃えてる杏を見て勝手に覚醒する彰人も街で歌う杏見つけたいつもの彰人って感じでおもろかったね~補習でバトルすんのやめな。

というわけでRAD WEEKENDを超えるためにもガチで勉強しよう、『Let's study hard!』そんな感じでどうでしょうか。

おわりに

今回そんなに大きくストーリーが動くみたいな話ではなかったとは思うのですが、実質ビビバスイベみたいな文脈も込められてて新学年に向ける意思表明としてはなかなかアツい展開だったのではないでしょうか。

おわりだよ~。